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2020.06.16

訪問診療ブログ『オヤジの生き方』

『オヤジの生き方』
認知症のお一人暮らしの高齢男性でした。
慢性肺疾患で大の病院嫌いとのことで数年前にご縁があり、担当していました。
何度か危険な局面となっても、
持ち前の生命力で復活されました。
かなりの頑固者で、お気に召さないことには直ぐにご立腹。
でも、それが彼らしさでした。
長いお付き合いの訪問看護さん達も
ヘルパーさん達も、
皆さん良くお分かりで
しっかりとお父様らしさを尊重して下さり
お一人暮らしを続けて来られました。
遠方の息子さま達は
当初、施設入所や入院も考えておられましたが、
「家からは動かない」というご本人の強い意思と、
在宅チームの意見に納得されて、
静かに見守ることを決めました。
居間の安楽椅子が彼の定位置。
訪問看護さんが駆けつけると、
安楽椅子からはずり落ちて床で寝ておられました。
お声をかけると、
「俺、そんなに悪いのかい?」
「そうかもしれないですね。今まで、ずいぶん頑張りましたね。」
お布団に行きましょうと、
促しても頑なに拒みます。
どうしても居間に居たいご様子。
訪問看護さんと私で、
居間にお布団を持って来て敷きました。
ゆっくり2人でお身体を移動させると、
ふんわりふわふわの敷布団で安心した笑顔。
遠方の息子さまたちが着くには、
まだ数時間。
残念ながらそれには間に合わないと思われました。
でも、お父様は待ったのです。
会いたくて。
お2人の息子さまが到着されてからは、
たくさんお話もされたり、
ヤクルトを飲まれたり。
そして、
お二人が少しだけ
ほんの少しだけ目を離した隙に
そっと旅立たれました。
実は息子さまのお一人が、
遠く離れたお父様が心配で
居間の隅に小さなカメラを取り付けておられました。
お父様にも説明していたそうですが、
忘れん坊さんのずいぶん進んだお父様が
覚えているとは思えませんでした。
お父様は息子さまたちが到着するまで、
眠くなっても
怠くても
ずり落ちても、
お布団に行かずに
居間の安楽椅子から動こうとしませんでした。
それはきっと
カメラに自分を写しておきたかったから。
カメラの向こうの息子さまと
繋がっていたかったのでしょう。
ちゃんと憶えていたのです。
息子さまの優しい視線が有ることを。
寝巻きには着替えずに、
シャツにカーディガン、ズボンのまま。
いつまでも、良いオヤジだよ。
いつまでも、毅然とした、
安楽椅子に悠然と腰掛けている、
頑張っているオヤジだよ。
その姿を貫いて、
息子さまたちお2人の居られる家から
ちゃんと奥様のもとに旅立たれました。
そして奇跡はもうひとつ。
アイボ(犬のロボット)は、
息子さまからのプレゼントで、
お一人暮らしのお父様の相棒。
往診の時もいつも
「コイツが居るからね。
いつも一緒なんだよ。」と教えてくれました。
けれども長年の相棒は
お父様が不調となってから
同様に壊れてしまったのか
この数週間お喋りしていませんでした。
お父様をお看取りした後に
息子さまお2人と訪問看護さんと、
思い出話をしていましたら、
突然、アイボが
「バイバーイ!」
と、ひとこと。
そして、もう何も話しませんでした。
訪問看護さんと目を見合わせ、
ただ
ただ
驚くばかり。
その場の皆が心からの笑顔に。
最後に
お父様に深々と敬礼をして
家を出ますと
外は気持ちの良い青空が
ゆっくりと、
暮れていく支度をしていました。
合掌。

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