『コーヒーをどうぞ』
大切なお母さまに悪性疾患が見つかりました
進行は早く
入院のまま数ヶ月が経ち
会えない日が続きました
このままでは…
ご家族さまは少しでもお会いする時間を
工面するために
高齢者住宅への退院を決意されました
穏やかな時間
ご家族との楽しい面会
スタッフさんたちとの温かい交流
あっという間にそれも過ぎ
お母さまにお別れが近づきました
明け方に血圧が下がり
喘ぐ様な下顎呼吸となりました
娘さまは朝早くから駆けつけて
側で手を握っておられました
施設看護師の男性は
何かできないだろうか、と考え
お母さまのお好きな
食べ物や飲み物はございますか?
そういえばコーヒー好きでした!
亡くなった父と二人でよく飲んでました!
是非それを叶えましょう
直ぐに用意された良い香りのコーヒー
でも、どうやって?
お母さまは意識も無く
血圧も測れず
下顎呼吸の状態です
とても何かを飲めるとは思えません
そうだ!
看護師さんが持ってきたのは
口腔ケアのスポンジ
一緒にやりましょう!
看護師さんがお母さまの酸素マスクを
少し口から離して持ち
娘さまがコーヒーを浸したスポンジで
香りを鼻に
唇にも少し
そしてお口にそっと含ませると
弱い下顎呼吸が止み
大きくお口を開けて
その香りを
芳ばしいコーヒーを
しっかりと味わうかの様に
深く長い呼吸が現れました
娘さまは思わず看護師さんと目を合わせて
お母さん、分かるのね!
美味しいのね!
もっと欲しいのね!
スポンジで楽しんだ
尊いコーヒーの時間
お母さまは満足されたご様子で
穏やかなお顔で
静かに旅立たれました
今頃はお父さまと再会されて
お久しぶりにお2人でコーヒーを
召し上がっていることでしょう
スポンジで含ませたコーヒーの話をお聞きして
感心して男性施設看護師さんの偉業を労うと
そんなことないんです!
もっと前に気がつけば良かったのに!
と、彼の目にあふれる涙
いえいえ、今日の旅立ちの
大切な門出に
美味しい
極上のコーヒーを
提案してくれて、
きっと
心から喜んでいらっしゃいますよ
コーヒーの香りは脳にα波を増やし
深いリラックス効果をもたらすそうです
最高の看護師さん魂、
最高の緩和ケアでした
合掌