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2019.02.13

訪問診療ブログ『最期まで自分で在ること』(過去編)

金谷 潤子
2018年11月5日 に Facebookに投稿した記事の振り返りです。

これからも少しずつ過去の記事を投稿していきたいと思います。

食道癌末期の方。
まだお若い。
呼吸困難が進行してきている。
疼痛も強くなってきた。
モルヒネの内服を開始した。
最初はとても調子良く過ごしていたが、呼吸抑制からおそらく炭酸ガス血症となったのであろうか、或いはモルヒネのせん妄か、ぼんやりとし始めた。
彼はノートに書き殴った。
「廃人になった」
「薬で頭がおかしくなっている」
「自分じゃない」
部屋も荒れ果ててきた。
訪問看護師さんと相談して一度全て麻薬類を切った。
薬が抜けてくると言葉が次々と現れてきた。
「もう残された時間は短いかもしれません。
でも、これは誰にも分かりません。
もともと、ご紹介頂いた病院の先生が予測していた時間の4倍くらいは既に経過しているのですから。」
「お迎えが近いことは怖いですか?」
「死ぬのは怖くない。自分が無くなるのが怖い。」
「もうお身体はずいぶんとお疲れになってきているようです。
酸素が充分入ってくると、時に脳は『酸素が満ちているからそんなに呼吸せずに頑張らなくていい』と、勘違いして呼吸の回数や深さを減じてしまいます。
今の時期は不安や恐怖を和らげて、呼吸の苦しさを取るために少しぼんやりさんの方が楽だ、そうなりたいと言う方も多いです。
◯◯さんはいかがですか?」
「頭がしっかりと最期まで自分でありたい。」
「時間は短いかもしれません。
それでは『最期までご自分で在りたい』を大切にしましょう。
その為に酸素も我慢しましょう。
炭酸ガスを少しでも減らすためです。
呼吸の苦しさを減じる為にごく僅かだけもう一度モルヒネを使いませんか?
ご自分を失う量にはさせません。
会っておきたい方、残しておきたい言葉などお考え下さい。」
再度訪問看護さんと相談して、モルヒネの坐薬を4分の1程度に切って使いました。
5時間ほど経過して見に行ってくれた看護師さんからは「とても落ち着いていました。『まだ少し苦しいけどこれで良い、大丈夫。先生に言われたことを考えて、しなくてはならないことを今まとめてる。』とのことです。」
と、ご報告がありました。
緩和ケアとはただ痛みや苦しみを除くだけではなく、その人らしさを引き出すための在り方を叶えるための工夫です。
この方にとって、毎日訪問看護さんが来てくれることが最も大きな心の支えだとのことです。
それに加えてご自分のお仕事の集大成。
それらを邪魔しないような薬剤調整。
ぼんやり穏やかに過ごすことが誰もが求めてる終末期
ではない。
人の数だけ幸せの在り方は違い、
価値観も違う、
そして薬剤の効き方もまた違うことをいつも忘れてはならない。

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