囲碁の歴史は古く、中国で紀元前に始まり、2千年前にはすでに庶民のゲームとして一般的でした。日本には吉備真備らの遣唐使以降伝わったといわれています。昔は女性もよくたしなみ、紫式部や清少納言も囲碁をやっていたようです。囲碁は、序盤の布石から中盤の戦い、終盤のヨセと戦略性に富み、実際の戦闘にも似たところが多く、岡目八目、定石、一目置く、駄目、八百長、布石、捨て石、死活問題、大局観、目算など、ことわざになっている言葉も多数あります。
私は麻酔科医ですが、麻酔と囲碁の関わりも二つほどあります。一つは、三国志で有名な関羽の逸話で、腕の矢傷の治療を受けるのに囲碁を打ち気を紛らわして麻酔なしで手術をしたというものです。この時に治療を担当したのが伝説の名医といわれる華佗(かだ)です。華佗は『麻沸散(まふつさん)』といわれる世界で最初の全身麻酔薬を発明したことで有名です。しかし、華佗は曹操によって殺されてしまい、麻酔薬の秘密は永遠に謎になってしまいました。余談ですが、この『麻沸散』の再現に挑戦し『通仙散(つうせんさん)』という麻酔薬を発明したのが華岡青洲(はなおかせいしゅう)という日本の医師で、記録上は世界最初の全身麻酔として日本の誇るべき業績です。もう一つは、日本の名棋士の一人、趙治勲(ちょうちくん)で、彼が交通事故でケガをした時に、手術のために麻酔が必要だとしても、「碁が弱くなっちゃいけない。麻酔だけは打たないでくれ。」といって、麻酔なしで手術を受けたことです。ただ、現代の医療で、麻酔で碁が弱くなるとは考えられません。(念のため)
あと、最近話題になったのは、AI(人工知能)と囲碁の話です。AIとの勝負は、チェスに始まり、1997年にIBMの「ディープブルー」が世界チャンピオンを打ち負かします。しかし、将棋や囲碁はずっと複雑なので人間の方が優位でした。その後、AIはさらに進歩を続け2013年には将棋、2015年にはついに囲碁の欧州チャンピオンにも勝利します。2016年には、世界最強棋士にも勝ち越します。今後の我々人類の未来はAIに握られるようになるかもしれません。