金谷潤子
9月19日
2月に胃瘻選択した方の投稿をし、
5月にさらに続編の投稿をしました。
実は昨年の今頃、この方が自宅退院された後、1ヶ月後にまさかのお父さまに末期癌が見つかっていました。
それでもお父さまは自分のことより、お母さまのお世話をすることを毎日大切にして過ごして来ました。
アクシデントを乗り越えて作り上げてきたご夫婦のささやかな幸せな時間も、残念ながらしばしの中断となります。
お父さまが静かに先立たれました。
もう一度、5月の投稿をご紹介させて下さい。
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「脳卒中の高齢女性。
リハビリ入院されていましたが、どうも状態が悪くひっきりなしに痰の吸引の毎日。
病院はこれ以上できることは無いとのこと。
娘さまとお父さまはそれならばと、自宅看取りも念頭に置かれてご縁があり昨年9月に退院しました。
お母さまは鼻管から栄養が入り、点滴をして、酸素が必要でした。
応答は全くありません。身動きもしません。
グァッグァッという、イビキとは違う苦しそうな呼吸音が一日中喉からしていました。
微熱があり、痰の吸引は頻回。
栄養と点滴をやめて自然なお看取りについて話し合いました。
けれども、ご主人さまは諦めきれない。
これ程病状が進む前、介護が少し必要となった奥様のために建て増ししたバリアフリーのお部屋。
やっと家に連れて帰って来たのにお別れなんて辛すぎる。
分かります。
お話を色々聞くと、以前鼻管が入っていた際には自分で何度も抜いてしまっていたとのこと。
鼻管がかなりのストレスとなる方は多くいらっしゃいます。
この喉元の苦しそうな音や、とめどなく上がってくる痰や、低酸素状態や発熱は何もかもが鼻管のせいに思われてなりません。
私は昔、鼻管がどれほどの苦痛か理解する為に自分で入れてみたことがあります。
鼻の奥から喉に管が常にあるその違和感は半端なく。
吐き気を催し、本当に辛かった。
人によっては咽頭の感覚が鋭敏な方と鈍磨な方がいらっしゃいますから一概には言えませんが、鼻管が入っていることで私は唾もうまく飲めませんでした。
患者さんによっては鼻管が入っていることそのものが誤嚥を引き起こす原因になる場合もあるのです。
私は鼻管の代わりに胃瘻を作る事についてご家族に提案をしました。
お父さまは「また入院はもう嫌だ。」
「苦しませるのも嫌だ。」
そうですよね。
でも、胃瘻の手術侵襲は胃カメラとさほど変わりません。
卒業したい時に胃瘻のカテーテルを抜くのはその場でもでき、孔は絆創膏で留めておくだけであっという間に自然に塞がります。
鼻管が取れたなら、お母さまはもっと良い方向に行くように私は思うのです。
お看取りを考えなくても良いかもしれません。
お別れしたくないが為にお父さまも胃瘻に同意され、
理解のある消化器の先生にご相談して短期入院を受けていただきました。
退院してから約1ヶ月後でした。
そして胃瘻栄養となり痰の吸引は殆ど必要無くなりました。
酸素吸入も必要無くなりました。
喉元の苦しそうな音は消失し、呼吸は安らかで、日中は開眼し表情が豊かになりました。
手足も少し動かすようになりました。
お声かけに反応することも増えています。
リハビリも始めました。
少しの楽しみならば口から食べる可能性も有るかもと判断して、嚥下のリハビリの為に訪問歯科さんも一生懸命工夫して下さってます。
お父さまは介護と寄り添いに生きる喜びを感じて日々過ごしておられます。
先日、往診の際に麻痺ではない右手を取り、
「〇〇さん、お父さんと毎日一緒に居て嬉しい?
嬉しかったら手をぎゅっとしてね。」
と、声かけすると直ぐにびっくりするくらい力強くぎゅっと握り返してきたのです。
じわぁっと目頭が熱くなりました。
この方はちゃんと毎日生きておられる。
感じておられる。
「お父さん!お父さん!
お母さんね、今、強くぎゅっとしたよ!
お父さんと一緒に居て幸せだって!!」
お父さまも目が潤み恥ずかしそうに「そうかい。嬉しいね。」
それからは娘さまも毎日、
ハンドコミュニケーションを楽しんでおられます。
リハビリの先生にお伝えして、コミュニケーションの手段など色々工夫していただけないか早速お願い致しました。
歯科からのさらなる応援もいただけるとの事です。
この方を自然経過でお看取りせずに、胃瘻を造設したことは延命治療でしょうか?
どの人にも生きるエネルギーの灯火があります。
どれほど高齢でも
意識レベルが低下していても
いのちの灯火は緩やかに小さくなろうと、消える仕度をしているのか、
あるいは小さな種火でも大きく燃えさかるチャンスを待っているのか、
私は医療者としてしっかりと見逃さないようにしたいといつも思います。」
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※写真は5月の投稿時と、7月に訪問看護さんと訪問リハビリさんで外に連れ出して下さった時のご夫婦の姿です。
またいつかこんな風に幸せにご一緒されて下さい。
先にゆっくり休まれて、待っていて下さいね。
合掌。