訪問診療ブログ『皆さまにご挨拶を』
金谷 潤子
12月22日
まだまだお若い癌末期の方。
お一人暮らしの彼女が終の住処として10月に越してきたのはアットホームな高齢者住宅。
彼女は高齢者ではありませんが、施設の看護師さんやヘルパーさん達と直ぐに打ち解けました。
程なくご病状悪化で入院となり、積極的治療の選択肢が無いとのこと。
住宅に帰りたいとのご希望で、10日前に退院して私にご縁をいただきました。
緩和ケア治療の効果か、
ご家族と外食にも行かれ、
毎日大好きな鮭のトバやスナック菓子など色々楽しまれて過ごされました。
それでもだんだんとご体調は落ちてきて3日前にはお話も殆ど聞き取れない様に。
けれども昨日、
朝から突然目覚めた様に目ヂカラもシャキッとされて、
今まで病名を伏せていたご親戚やお友達の方にも次々とお電話をされ感謝とお別れを伝えたそうです。
約1年間の癌治療を受け持っておられた病院ドクターにも心からの感謝を言付かりました。
私にも施設スタッフさんにも、短い期間ですが涙ぐまれながら「ありがとう」の言葉をいただきました。
旅の力をつけたかったのか、お食事もしっかりとご自身で召し上がったのです。
私はひざまずき、ベッドの彼女の手を取り、このようにお声かけしました。
「◯◯さん、私ね、向こうに言ったらまたお元気な生活が待っているのを知ってるんですよ。
たくさんお看取りしていると、
先に旅立たれた方々が皆さん教えてくれるんです。
『死は終わりじゃないよ、また会えるから頑張って生きておいで』と。
◯◯さんともう少しでしばしのお別れかもしれませんが、また必ずお会いします。
私ね、◯◯さんと会えて良かった。
私ね、◯◯さん、大好きです。」
「どうして?」
「◯◯さん、おきれいだから」
「あなたの方がきれいでしょ」
「◯◯さんの魂が美しいんです。
とても美しいから、こうしてお会いしたら私の魂まできれいになるんですよ。
ありがたいです。
会えて良かった。
美しくてきれいで清らかな◯◯さんが大好きで嬉しいです。」
と、頬をくっつけてギューっと抱きしめました。
◯◯さんは目尻に涙を浮かべながら優しく微笑んでいました。
「少し眠りたい。ゆっくり休みたい。」
少しだけモルヒネと睡眠薬の座薬を使い、◯◯さんはスゥッと眠りにつきました。
そして翌朝にご家族が見守られる中、静かに静かに呼吸が止まりました。
お気に入りのmont-bellのフリースにお着替えされて、新しい門出のご衣装は私とお揃いです。
ご家族さまの言葉。
「病院じゃないと難しいことだと思っていましたし、今まで在宅での死についてイメージが湧かなかったけれど、こんなに穏やかにギリギリまで普通に過ごせて良かったです。
自分もいつかこんな風に旅立ちたいと思います。」
今日は冬至。
陰が極まり再び陽にかえる日であり、「一陽来復(いちようらいふく)」今日を境に福に転じていくと古来から言われて来ました。
向こうに着く頃はすっかり春ですね。
またお会いしましょう。
合掌。
訪問診療ブログ『お一人お一人に向き合う…人生会議も然り』
金谷 潤子
12月11日
院長が録画して見ているキムタクさん主演の「グランメゾン東京」
フレンチの三つ星獲得を背景に志熱い料理人達が繰り広げる人間ドラマです。
元々、クリエイティブなことは好きなので色々な料理が出てきて楽しい。
でも、それだけではありません。
お金儲けだけではない
技術だけではない
ステイタスだけではない
人として大切な「何か」を追い求めるドラマ
そこには医療にも共通している大切な言葉も散りばめられています。
前回から。
「お客様 一人一人にあわせて
ビーフシチューを作ってた。
我々が見るべきは
皿ではなくて 人なんだって。」
「えっ でも 人の味覚なんて
分からなくないすか?」
「いや でも 俺がもっとちゃんと
コミュニケーションとるべきだったんだよ。」
そうです。
私たち医療者も
「見るべきは
病ではなくて人」なんです。
そんな一人一人に合わせて微調整なんて。
できない?
できます。
ひと手間を惜しまなければ。
目の前のお一人お一人に、少しでも安心をお届けしたいという思いがあるならば。
障害を乗り越えて人生に立ち向かう方も
日々をただ穏やかに過ごしたい方も
死を前に旅立ちの支度をする方も
死の宣告に戸惑い絶望する方も
どんな方も
ここに共に今生きている
その思いに
心ゆくまでの工夫で応える医療でありたい。
※お腹の大きな脂肪腫の摘出をしたウチの犬。
人だけではなく、全てのいのちの声なき声に耳を澄ましていたいと思います。
訪問診療ブログ『青い山脈』
金谷 潤子
11月27日
今年の春に仲良し看護師くんから「是非先生に」と、ご縁をいただいた方。
元々、頑張り屋さんのお母様でした。
数年前から落ち着かなくなり、
色々お薬が増える度にお元気がなくなって来ていました。
ご本人もご家族も待ち望んだご退院。
お帰りなさい。
ご本人の笑顔。
ご家族の笑顔。
でも、残念ながらご体調はやはり不調となり、緩やかな下降は続きました。
1週間ほど前から発熱をきっかけに、殆ど眠ったままに。
血液検査と病状を確認させていただき、治療を開始しましたが、効果の無い場合のお心づもりについてもお話しました。
もしかすると、お迎えか近いかもしれません。
そして残念ながら改善は見られませんでした。
退院されお薬調整して1週間ほどで見違えるほどお元気になった初夏。
時々怒りん坊さんになるけど、でも活気と優しい笑いに溢れた時間。
失禁も無くなり、歩行も安定して、
笑顔で口ずさんだ「青い山脈」。
でも、穏やかな時間は2ヶ月ほどで途絶えました。
何度か体調不良を繰り返す度に、弱く、か細くなっていくのを皆が感じていました。
1週間前からの状態変化。
どのような治療を選択されますか?
病院に行けば、治療の為の点滴類を外さないように工夫が施されてしまうでしょう。
ご本人にはそれが理解できず、困惑、混乱するでしょう。
そして一時的に改善を見てもまた繰り返すでしょう、これまでの様に。
そうですね。
もう十分だと思います。
治療は卒業としました。
点滴はそっと外しました。
遠く離れたご家族さまたちが次々とご挨拶に見えました。
どうかご本人の周りで普通に楽しくお過ごし下さい。
幸せな日常の中に、ご本人の旅立ちの風景も入れて差し上げて下さい。
それは
寂しくなくて、
自然で、
安心な道行となりましょう。
ご家族さまは深く理解して下さいました。
そして待ちに待った入浴。
(私は、お迎えがどんなに近づいていても、ご本人やご家族が入浴を望まれるならいつも積極的に勧めて手配しています。)
担当訪問看護さんも駆けつけて参加。
訪問入浴スタッフさんの粋な計らいで、
ご家族皆さまが少しずつ湯をかけ、
優しく洗って差し上げました。
もう殆ど意識は無いのに、
温かい湯にゆっくりと身を沈めた途端
パァっと気持ち良さそうな表情とお顔色に変化して、
心配されていたご家族さまも
その幸せな入浴ぶりに驚くやら喜ぶやら。
その翌日。
身支度も整えられ安心したお顔で、
眠るようにそっと旅立ちました。
ご家族さまのお気持ちはひとつとなり、
ご本人の幕引きの数日を支えておられました。
特別ではなく
恐れることなく
愛しんで。
いつものように、
また会う日まで。
春の訪れを告げるこの歌。
病から解き放たれ、
温かな春の香気に包まれ、
いつまでもこの歌とともに。
合掌。
(写真はお歌を口ずさんでいた、この夏の訪問看護さんとご本人のお手元です。投稿にもご理解をいただきました。)
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青い山脈 作詞:西條 八十
作曲:服部 良一
若くあかるい 歌声に
雪崩は消える 花も咲く
青い山脈 雪割桜
空のはて
きょうもわれらの 夢を呼ぶ
古い上衣よ さようなら
淋しい夢よ さようなら
青い山脈 バラ色雲へ
あこがれの
旅の乙女に 鳥も啼く
雨にぬれてる 焼けあとの
名も無い花も ふり仰ぐ
青い山脈 かがやく嶺の
なつかしさ
見れば涙が またにじむ
父も夢みた 母も見た
旅路のはての その涯の
青い山脈 みどりの谷へ
旅をゆく
若いわれらに 鐘が鳴る