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2022.10.26

訪問診療ブログ『魔法の胃の管』

『魔法の胃の管』
まだ若いお母様に
急に重篤な癌の告知が下されました
病院に行った時には
治療はもはや不可能な段階でした
胃に溜まる消化液も
腸に流れずに嘔吐してしまいます
排液の為の胃管が
鼻腔から入り留置されました
飲むことも
食べることも
もうできません
病院で過ごすことが辛く
ご自宅で最期まで
ご家族と過ごすことを決めました
少しだけの点滴を
毎日続けました
欠かさず飲んでいた
大好きなコーヒー
先生?
やっぱり無理ですよね
飲めませんよね
飲みましょう
ステキな胃の管が入ってますから
飲んで直ぐに
そこから抜きましょう
お母様は美味しそうに
淹れたてのコーヒーを
味わい
ゆっくりと飲み込み
娘さまが横で
専用の大きな注射器で
管から吸い上げて破棄しました
喉越しで充分に満足されました
嘔吐も何も起きませんでした
毎日たくさん口にされました
アイスクリーム
お茶
スープ
甘い飲みもの
少しのお酒
2か月ほど毎日
飲食を楽しみ
ドライブも何度も叶えて
大きな苦しみも
痛みも無く
静かに
そっと日常の中で
旅立ちました
違和感や苦痛の印象が強い
胃管留置ですが
この方には
飲食できないはずの終末期を
お迎えの日まで
楽しむことを叶えてくれた
大切な魔法の管でした
2022.09.27

訪問診療ブログ『明日、死がやってきたら』

『明日、死がやってきたら』
誰もが今日を生きている
でもいつかは来る終わりの日
今生の終わり
次の始まり
その手前
でも今触れている
柔らかい手とはお別れ
優しい声とはお別れ
しばしのお別れ
今触れている大切な誰かとの
時間は実はわずかなのに
皆、
今日のバタバタに
今日のスケジュールに
つい
あとまわし
でも、それも
仕方ない
頑張ってる生き様
生き方
———————————–
ご無沙汰していました
なんとなく世の中が錯綜していて
自分の言葉も
良い形で届かないのでは、と
日々の積み重ねをまとめることに
躊躇がありました
加えて体調を崩し
走りっぱなしの在宅医療も
初めて数日お休みしていました
幸い患者さんたちは
落ち着いてくれていました
電話やコミュニケーションアプリでの
やりとりはずっとありましたが
それは私の安心でもありました
(スマホ、感謝…)
体調が悪いピークの時には
患者さんたちに想いを馳せました
こんなに辛いんだなぁ
私たち医療者の役割は
なんだろう
社会や生活を変えたいなんて
そんなことは思わない
自分にたいそうなことが
できるとも思わない
私の代わりはいくらでもいる
ただ、
病気や障害とともに
生活する時の、その工夫
死を目前にした時の
少しでも楽になるのではないかと
思われる工夫
そんなことを
誰かが目にしてくれたなら
と、
在宅医療を始めてから
機会があればお伝えしてきた
それでもそんなことは
私では無くても
誰でもしている
私は医療者として
かけがえのない存在じゃない
私は、私としては
ただ1人
履き違えないようにしたい
私として
今までの生きて来た道が
走馬灯のように照らされる
他国籍に生まれ育ち
色々な思いも知りました
寄り道や道外しも有り
人様に迷惑もかけました
逆風の中の全力疾走だったり
酔っ払って千鳥足だったり
それでも生きて来たなあ
さて、これから先の残る時間
自分はどう生きようか
そんなことを考える
束の間の療養時間でした
今は元気です
通常スタイルに戻って仕事しています
ただ、
そんなことを考える時間は
大切だったなぁ
※写真はクリニックの有るビルを左手奥に望む南大通の夕暮れ
2022.06.23

訪問診療ブログ『ある日、あるご家族と』

『ある日、あるご家族と』
◆私
「こんにちは。
お父様のご体調いかがでしょうか?
薬剤を変更して数日とても良く、
ご体調見てまた増量しております
元々の病院さんから
お父様の肺機能は非常に末期的で
ご自宅での生活は難しいとの
申し送りでした
それを踏まえると、
お父様に残されたお時間は
それほど長く無いかもしれません
今を少しでも不快無く
楽しく過ごしていただくことが
最優先で良いでしょうか。
改めて再確認でした」
◆奥さま
「お休みの日にありがとうこざいます
今日は盆栽の仲間が来てくれて、
楽しそうに、話しています」
◆息子さま
「先生、いつもありがとうございます
本人はいつも口癖のように
「今は自宅にいるのに、入院と変わらない安心感だな
先生は常に気にかけてくれているし、
看護師さんやリハビリの先生も来てくれる
うまい飯も食えるし盆栽もいじれる」と、いまの生活が送れることを
とてもありがたく感じています
先生からの治療方針のご説明、
薬のことなど、
全て受け入れているようです
今後ともよろしくお願いします」
◆娘さま
「先生ありがとうございます
わたしは正直、
前回の入院を終えた時、
次はもう覚悟が必要と思っていました
入院するといきなり食べなくなり、
みるみるうちに
衰えていったからです
父は、もう病院にはいたくないと
何度も言ってました
コロナ禍で面会も叶わない中、
孤独も耐えられなかったんだと思います
父は今朝、私に
棚に入っている石を出して欲しいと
頼んできました
言われた通りに出すと、
今日くる盆栽仲間にあげるんだ、と
少しずつ処分したい、と
言っていました
いろいろと父なりの
思いがあるんだなと
少し寂しい気持ちにもなりました
こういうことを受け止めていくのは、
楽ではないな、と感じます
けれども、
少しずつその機会を
いただけているのは、
ありがたいのだと思います
私は今まで通りに
父や母との時間を
過ごしていくつもりです
今後ともどうぞよろしく
お願い申し上げます」
◆私
「ポロっと涙がこぼれました
切ないですね
でも人は必ずこの世のお別れが来ます
大切な石の形見分け
お父様なりの終い支度、
尊い行いだと思います
ご家族さまとお父様の
大切なお時間を
できる限りのサポートを携え
チームで伴走したいと思います
この世は修行なんだろうと
いつからか考えるようになりました
お辛い思いをした方は、
向こうで労いを受けて
ゆっくりされるのだと思います
生きることはとても儚くて、
だからこそ
とても尊いのだと思います
私は、今日が最後でも
悔いは無いと、
毎日生き切る気持ちで
床に着きます
昔は、物や若さや見た目に
固執しましたが
やっと大切なことが見え始め
それらへの執着は薄れました
人との出会いで
自分の心が磨かれることが、
幸せで喜びです
◯◯家とのご縁でも、
たくさんの学びをいただいてます
ご一緒におられるお母様にとって
ご不安少ない日常が少しでも長く続き、
穏やかでさりげない、
お父様のご卒業であることを願います
今後ともどうぞ宜しくお願いします」
※連休前半、お遍路2巡目に数日行って来ました
皆さまの穏やかな道行を願い
静かな山寺で無心になると
少しずつ自分が透き通って行く気がしています
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