2020.12.11
訪問診療ブログ『ささやかなメッセージ✉️』
『ささやかなメッセージ✉️』
長い夜にはいつも癌末期患者さんのご家族や訪問看護さんたちとLINEなどでやりとりが続きます。
いくらでも説明ができて、
分からなければ繰り返して見て確かめることもできる。
SNSでのやりとりはとてもありがたい手段です。
ある娘さまに先程このように送りました。
『…
お母様が徐々にご自身で納得されて、
無理なく受け入れていただける「老い」であってほしいと思います。
老いは悲しいことではありません。
たとえできないことが増えても。
できなくなることが「老い」ではない。
「老い」とは、長く頑張って生きてこられた自分自身を受け入れていくことです。
どうか、聡明で理知的なお母様、
老いを悲しむことは、
それは違うのだとお気づき下さい。
邪魔をしている真面目なお気持ちを
少しだけ薬で楽にできるように工夫してみます。
素晴らしいご自身の人生を
老いを
受け入れて
ゆっくりと思い返して
対峙する時間でありますように。
お母様の歩みは娘さまや私や、関わる全ての方々への道標です。
明日が娘さまとお母様にとって良い一日でありますように。
札幌麻酔クリニック 金谷』
※写真は私の大好きな百代後半の女性の手です
2020.10.21
訪問診療ブログ『奇跡を、魔法を、どうか見せて』
少し前までお元気に働いておられた
自営業の高齢男性。
転んだ打ち所が悪くて入院となりました。
世の中はコロナ対応。
面会謝絶で入院しているわずか数週の間に
ご本人はすっかり衰弱してしまいました。
飲食すると誤嚥してしまい、
手足からの点滴も限界が見えています。
ご本人はどうしても帰りたい。
家に帰りたい。
ご本人やご家族への説得、予後説明も含めて介入することとなりました。
おそらく1週間程度のご自宅でのお時間。
本日はその第一日目。
嬉しい退院日ですが、
点滴を卒業して旅立ちの準備の始まりです。
ご家族さまがお揃いになるのを待ち、
ご病状説明とこれからのお心づもりについてお話しました。
そうすると、あるご家族さまの言葉。
たったこれだけの短い期間にこんなになってると誰も教えてくれなかった、
食べれないなら本人と、胃瘻や点滴の相談したかった。
本人が病院から聞かれて、
さっさと自分で「胃瘻は嫌だ、高カロリー点滴も嫌だ」と簡単に決めて、気がついたらこんなことになっていた。
皆で考えたかった。
自分にも説明して欲しかった。
会えてさえ居れば、
説明して欲しいと医者にも言えたんだ。
奇跡は無いのか?
お願いだ、奇跡は無いのか?
奇跡でも魔法でもどうか見せてくれ。
と、嗚咽、涙。
分かります。
分かります。
悔しいですね、切ないですね。
でも、病院もコロナのことで懸命だったんです。
高齢者は病院に入院したら、
多くの場合弱ってしまうことは
今は皆さまお分かりになっています。
残念ながらこれはご本人さまの道行きなのだと思います。
死ぬことは悲しみだけではないんですよ。
ここで旅立とうとされているご本人さまは、
少し前までお元気に働かれていたのですから
ピンピンコロリを全うされようとしてるのですよ。
応援しましょう。
立派な人生を
潔い生き様を
しっかりと見届けて差し上げましょう。
忙しそうな病院からは説明もあまり聞けなかったけれど、
最後に出てきた通いの医者は、
もう要らんと言うほど話をしおって、
腹一杯になるほどだったわ、と、
必ず思っていただきますので。
最後の最後に出会った医療は、
最期までご本人らしく生きることを諦めず
1日1日を大切に生き尽くすための工夫を凝らしていた。
たとえ消えかけている灯火であっても
それを随分と大切に頑張っていたようだと
しっかり感じていただきます。
ご家族さまも、涙を拭いながら
うなづいて下さいました。
ご家族さまとのLINEもスタートし、
熱血福祉用具さんの大活躍や、
頼りになる訪問看護さんのご協力をいただき、
ご本人さまの大切な最終章の始まりです。
おしどり夫婦だった奥様も、もうそろそろまたご一緒にと向こうからお迎えに。
皆の思いを受けて
ご本人のお身体がゆっくりと透き通って
ふんわり軽くなっていきますように。
奇跡や魔法は
ご本人がご自身で、
あっぱれな旅立ちに向けて見せて下さるでしょう。
2020.08.28
訪問診療ブログ『彼岸からのかわいい往診同行者』
今日の往診の出来事。
不思議な能力のある高齢女性。
前に手相を見てくれたこともありました。
「先生、いつも思ってたんだけどね、ご家族とかに7の数字に関係有る人居ない?」
「ええ?どうしてですか?」
「いつも、こんくらいのかわいい坊やが一緒に来てるよ」
「私は娘しかいないし、もう2人とも成人してるんですよ。7はおそらく父です。
亡くなりましたが父の名前は◯七なんです。」
「そうかい、それは嬉しいね。先生と一緒に先生のお父さんにも往診してもらってたんだねえ。」
「父は医者になりたかったみたいなので、私の往診について来て嬉しいのかもしれません」
2年前に看取りした父。
私は父の主治をするために在宅医療の道に進みました。
脳梗塞後で要介護5の父。
平日は施設、週末に自宅に帰る生活のサポートをしていました。
2年前の6月突然前触れもなく旅立ってしまいました。
父は優しくもの静かな人でした。
片手で陶芸作品を次々と作り、介護タクシーの会社を起こす夢を語って母に怒られたり。
往診以外にももっともっとたくさん話せば良かった。
ごめんね。
患者さんを驚かせないように、
小さなかわいい坊やの姿で私の独り往診を見守ってくれていたのかな。
今日はどうしても涙が止まりませんでした。
※写真は4年前の父と私です。