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2019.07.24

訪問診療ブログ『高齢者の尊厳』

金谷潤子
6月11日

1年ほど前にご紹介いただいた高齢女性。
初診時は落ち着かない風で、ずっと何かをブツブツ話しておられました。
少しのことで直ぐに怒り始めてしまう。
同居のご主人様も近くにお住まいの娘様もかなり疲れ果てているご様子。
徘徊もありました。
出されていた薬の中にはアリセプト(ドネペジル塩酸塩)がありました。
異常な怒りん坊になっている方は、この薬剤が出されていることがあります。
適応を選べば刺激を与える役割を果たしてくれるのですが、使い方の大変難しい薬剤です。

ゆっくりお薬も変更、調整していきました。
今は
メマリー10mg1錠1×朝
クエチアピン12.5mg2錠×朝夕
ツムラ抑肝散 3包3×毎食前
で、しばらく良い状態が続いています。

この方は訪問看護さんが入っていない為、娘様とショートメールでやり取りをしながらご様子を把握して来ました。

「母さん、そんな事したらダメよ」
「危ないからやめて」
「もう、食べたでしょ。さっきも言ったよ。」

…これらはNGワード。

ご本人の治療ではなく、娘様へのアドバイスが大切でした

①ご本人を否定しないこと
②何かできることをやっていただくこと(危険と思われることでも思い切って)
③たくさん感謝し、誉めること

娘さんがくじける度に、「お母様は家事のエキスパートでしっかり者の母親でありたいんですよ、いつまでも。それを叶えてあげましょう。そうすると、穏やかで頼もしいお母様に戻っていきますから」
と励まし、細かな作戦を伝えて来ました。

娘様は時々失敗しながらも、自分で学んでいきました。
お母様を否定すると、お母様は荒れて落ち着かなくなる。
それを実感しながら作戦を前に進めて来ました。

そうするとお母様は少しずつ自分を取り戻していきました
通う「デイサービス小春」さんは、利用者参加型の素敵な取り組み。
お昼やオヤツも役割分担して皆で一緒に作ります。
小春さんの寄り添いも大きな助けとなりました。

今日はそんなスーパー母さんの今までの作品をたくさん見せていただきました。
お母様の手芸や洋裁の腕前はプロ級です。
今日お父様の着ているシャツも素晴らしい縫製のお手製でした。
往診時に誉めると、はにかんで嬉しそうなお母様。
どれほど多くの手作業をご家族に施して来たことでしょう
お母様の偉大な人生の歴史です。

「羨ましい〜。私もこんなお母さん欲しかった〜」と言うと、娘様が「ダメですよ〜」とお母様を優しく引き寄せ本当に嬉しそうな幸せそうな瞬間です。

ご自宅を一歩出てお母様に聞こえないところで、娘様と本題の会話をします。

さて、最近のお困りごとは?

「晩御飯を食べた後、何もすることが無くて少し落ち着かない感じなんです。」
「では、お母様にひと仕事していただきませんか?
町内会でバザーがあるとかそんな事にして、お手玉とかなにか小物を手作りして欲しいと頼んでみては?
晩御飯のあとは30分でも良いのでバイトの時間にしませんか?作る材料を調達して、1つ50円とかちゃんと売れたことにして。代金もお母様にお支払いして。何なら当院で買わせていただきます!それでお礼を何か買っても良いですね。お花とか。」

「そっか!私が材料も全部用意して頼んで、ささやかなバイトを頼まれた風に装えばいいのね!なるほど!
やってみます!」

素直で一生懸命な娘様は、忘れん坊さんで怒りん坊さんの高齢者にどのように寄り添えば良いのか、今やプロフェッショナルです。
1年前は神経質で怯えたような表情の娘様でしたが、今はたとえ困りごとであっても自信に満ちた愛情溢れる魅力的な笑顔でお話して下さります。

お母様の病状はご家族の鏡です。

「娘さん、どんな施設やデイサービスに行っても最高のヘルパーさんとして活躍できますよ!」
「あら、そうかしら!先生が施設作ったら雇って下さいな〜」
そんな会話をしながら今日の往診を終えました。

いつか、高齢者にもたくさんしていただきたいことをいくらでも用意できる世の中になりますように。

皆さま、高齢になった時にホールに集められて、十把一絡げにテレビを見せられたり塗り絵をさせられたりしたいですか?

長い人生を経て来た「ご自分」は100人いらっしゃれば、全て全く違います。
趣味も好みも何もかも。
生き方も。
そして、私たちよりもずっと経験値をお持ちです。
どんなに忘れん坊さんになっても、お得意な事の記憶はしっかり保たれることも多いのです。

お幾つになっても自分のお得意なことが、世の中の役に立つ未来でありますように。


※写真はこのお母様のお手製のシャツを着たご主人様です。丁寧で愛情こもった素晴らしいシャツです。

2019.07.24

訪問診療ブログ『サザンを聴くために』

金谷潤子
6月8日

今週末、サザンオールスターズのコンサートが札幌で開催されています。
たくさんのファンの方が色々な思いを胸に、夢のようなひと時を楽しんだことでしょう。
その中に私の患者さんご夫婦もいらっしゃいました。

若い癌末期の奥様。
私の2月の市民講座「大往生しよう!」をご夫婦で聞きにきてくれたそうです。

「もうお迎えが近くて状態も悪い時に、お風呂に入ったり、どこかに行こうとしていて、それで力尽きて亡くなったとしても良いではないですか?ご自身の楽しみや嬉しさに向かう気持ちを胸にしっかりと携えているならば、たとえその望み半ばだったとしてもその幕引きは幸せなものではないですか?入浴中の大往生や、どこか行きたいところに向かう途中での大往生、ステキでは?」

という私の話が奥様にとっては目から鱗で、「やりたいこと、我慢しなくていいんだ。この先生に最期まで診てもらおう」と思って下さったそうです。
ありがたいことです。

先週知ったサザンオールスターズのコンサートの話。
ご体調にはかなり波もあり諦めかけていましたが、優しい訪問看護さんの寄り添いや、私とご主人の日毎のメールでの体調確認などに少しずつ安心感と自信を持って下さり、「行ってみたい」と。

ご夫婦の思い出いっぱいのサザン。
それは何としてでも叶えないと。
福祉用具の田村 拓也さんに相談すると、体調不良の際にリクライニングすることができる車椅子のレンタルをその日のうちに都合付けて下さいました。
酸素の東京ホームケアさんは、車椅子装着用のボンベとバッグを直ぐに手配して下さり、訪問看護さんには週末に万全の状態に整えるための点滴や体調管理の計画をお願いして。

そして、今日は「大丈夫だったかな?」と朝からソワソワ心配してたところ、先ほど、ご主人からコンサート無事に楽しんで来られたとのご報告がありました!!
(写真はご主人がメール添付してくれた会場の様子です。
「途中で帰って来ても全然良いから!」と、背中を押してましたが、ご体調も良く最後まで満喫できたとのことです
嬉しくて嬉しくて、関わるチーム全員にご報告しました。

尊い時間を叶える為の工夫をこれからもチーム皆で形にしていきたいと思います。

2019.07.24

訪問診療ブログ『在宅看取りを知っていただく事』

金谷潤子
5月28日

お看取りが数日続きました。
在宅でお看取りさせていただいた後には、ご紹介元の病院や後方支援を頂いていた病院へのご報告をしています。
まだまだ在宅医療の現場のことは病院では実感できないことが多いと思いますので、看取りまでの経過を少しでも知って頂くことが必要と思っています。
本日も癌末期の患者さまのご報告をこの様な文面で送りました。

『平素大変お世話になっております。
患者様は◯月◯日からフェントス0.5mgで鎮痛開始、徐々に疼痛の増強見られましたがお粥や好きなものを少量摂取されて穏やかにお過ごしでした。
意識レベルも緩やかな低下の経過で、ご家族様は看取りへのお気持ちの準備も十分できたのではと感じています。
3日前には楽しみにしていた訪問入浴を済ませ、2日前には本州から娘様が来られました。
◯月◯日、朝から高熱と下顎呼吸となり◯時◯分に死亡診断させていただきました。
お身内皆さまの見守る中でお顔はとても満足そうな表情でした。
この度は後方支援を頂いているおかげで、ご家族、在宅チームともに安心してご本人の終末期療養を支えることが可能であったと深く感謝申し上げます。
今後とも良い連携を頂けますと幸いです。』

娘様が来られてから、まるで待っていたかの様にお食事も数口堪能して旅立ちました。
少し忘れん坊さんの高齢の奥様は精神的ストレスでご体調を崩されるのでは?と心配もしましたが、看取りの時にはむしろご主人の「最期まで家に居たい思い」を叶えられた高揚感と達成感を感じているご様子でした。
「本当にお疲れ様でした。どれほどご主人様が感謝されていることかと思います。
奥様の寄り添いを仏様もちゃんと見ておられて、お礼に長生きしなさいと言って下さいますね。」
と、話すとクシャクシャの笑顔で恥ずかしそうに
「そうでしょうか。そうだと良いのだけど。」と喜んで下さいました。

看護師さんと娘さんで、若々しいポロシャツ姿にお着替えされたご本人はご自慢の(何度も自慢話をされていました)ご自宅で一際輝いている様な旅立ちでした。

合掌。

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