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2024.06.27

医魂商才ノススメー新紙幣発行に思うことー

7月3日に、20年ぶりに新紙幣が発行されます。医師としては、北里柴三郎という偉人が採用されたことは喜ばしいことですが、「諭吉さん」の愛称で一万円札に描かれていた福澤諭吉は日本人の心の開国に貢献した偉人です。「天ハ人ノ上ニ人ヲ造ラズ人ノ下ニ人ヲ造ラズ」という有名な一節で始まる『学問のすゝめ』は攘夷に染まっていた混乱期の日本人の心に真の近代化に向けて進むべき道標を示しました。
 現在の日本の医療制度は多くの問題を抱えてます。具体的には、患者は誰でも最高の医療を望むが、医療費を負担する立場からすればできるだけ保険料や税が低い水準である事を望みます。しかし、これは100円ショッブでブランド品を求めるようなもので、行政はこの事に対する解答を示してはくれません。全ての責任を負わされるのは医師、医療機関ですが、現場での処理能力は限界を超えており、これらのサービスにどの位の財源が必要なのか、どのように適切に配分していけば良いかは、答えられない状態です。しかし、今までの医学教育は「医は仁術」とし、経営能力は必要ないものとしてきました。これが、今日の医療崩壊の大きな原因の一つです。かつて経営破綻したJALの例を引くまでもなく、親方日の丸の体質があまりにも深く医学界に浸透してきました。医療関係のリーダー達でさえ、その多くは闇雲に医療費の増額を訴えるのみに終始してます。それほどに、医師は経営のスキルを持っていないのです。
 それでは、医療は他のサービス業と同じように完全に民間企業に委ねてよいものでしょうか?私は、反対です。それは、民間企業主導では、医療の公平性、平等性が保証されないからです。最低限平等な医療サービスは全国民に保証されなくてはなりません。民間企業が営利のみを追求すると、昨今の投資を巡る企業犯罪のようなモラルハザードを起こします。日本資本主義の父といわれる渋沢栄一は営利主義の弊害を予知し、『論語と算盤』を著し、「道徳経済合一説」という理念を打ち出しました。理想の経営者は片手に論語、片手にソロバンを持つといった高い倫理感が必要であるという理念は、現在にも通用するものです。しかし、医師の場合には、倫理と医療技術といった両立しなくてはならないものが既にあり、その上にさらに経済学,経営学まで理解しなくてはならなくなってきた事が両立を困難にしています。
 以上の事から、これからの医療には経済学、経営学が必要となってきますが、医師がこれを全て担う事は難しいです。したがって、SPC(特定目的会社)のような「医経分離」は理にかなっています。しかし、医師以外の経営陣主導による病院経営は医療現場との距離ができ、現場に対する理解不足、さらに、そこに従事する医師達の就労意欲が低下し、長期的には成功しません。最良の解決策は、医師が経営学、経済学の基礎を身につけ、医療現場、事務職両方を巻き込んで、経営のリーダーシップを取っていく事です。制度が違うので一概には比較できないが、米国ではMBAは病院経営に必須の資格になってきており、大学院でもMD/PhDコースと並んで、MD/MBAコースを有する大学が増えてきています。より良い医療を行うためには、経営的手腕が必要です。医は仁術ですが、算術(経営力)も同時に必要なのです。

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